「…お前ってさぁ…。」
手を止めて、蘭斗が呟く。けど続きは言わないまままたペンを走らせ始めた。

「んだよー変なとこで止めんなー。」
「んー、なんでもねぇ。」
「気になるだろォがー。ばか大将ー。」
ぽかぽか、差しこむ陽光も柔らかい昼下がり。
書きもの机に向かう蘭斗。その背中からラグナがべたりとくっついていた。
…別に大した事じゃあない。蘭斗はちろりとラグナを見やる。ラグナって意外と甘えただよなぁ、とぼんやり思っただけだ。
二人だけでいるとよく背中から抱きついてくる。構ってほしい訳ではないらしく、ただくっつきたいだけらしかった。だからくっつかせといて仕事するんだけど。
でっけぇ犬猫みたいだなぁ、なんて思ってたらもすっと後ろ髪に顔を埋められた。
「なーんか俺の悪口考えてねェー?」
「気のせい。つーか何やってんだよ。くすぐってぇ。」
「んー。」
「…眠そうだなお前。」
声間延びしてんぞ、間延び。
指摘すれば、してねぇしー、とますます間延びした答えが返ってきた。してんじゃねぇか。思わず噴き出した。
「ねみーなら帰るかその辺で寝ればいいだろ。布団ぐらい貸してやっからよ。」
「いらねー。ここでいい。」
「あのな。邪魔だっつの。」
「んー、だってよォー…。」
だらりと垂らすだけだった腕で、ラグナはぎゅーと抱きしめた。
「大将あったけぇ…。」
…不覚にも、じんわり首筋が熱くなった。
「…………そーかよ。」
ふぅ。思わずつまった息を吐き出しておく。心臓の音にそっぽを向いて、蘭斗はまたペンを走らせた。
まもなく、かくん、と肩に垂れてきた短い青の髪。
しばしそれを見つめ、呆れ果てたように溜息をついた。それから、


(……あったけ。)

触れた唇に、伝わる体温。





まどろむおんど


(ころん。それから間もなく、手からペンが落ちる。)

fin.